脳卒中から助かる会 ☆☆

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要望書

平成17年 8月29日

横浜市立脳血管医療センター医療機能検討会議報告書について

「脳卒中から助かる会」 
代表 上野 正
 同 吉田 孝

                
はじめに
  上記報告書は8月26日にまとめられたのち市当局に提出されたが、その中に脳血管医療センターが急性期医療を提供することが当面は望ましい」とある。 当面との条件付きながら、一時は存立が危ぶまれた急性期医療が保持されたことはまず評価したい。
  また、この機会に横浜市における脳卒中医療を広い立場から検討する必要が明らかになったことも重要である。私達脳卒中患者、および患者予備軍である横浜市民の立場から、私達としての見解、要望などを発信してその実現を求めて行きたい。また、この問題に関心ある方々の積極的な行動を期待したい。

  然しながら、上記報告の内容に関しては、検討が患者の立場を重視せずに行われ、また、現代の脳卒中医療の常識が十分反映されなかったことなどもあって、提言がこのまま実施されれば危険な点が多いので、以下で具体的に指摘しておく。
この報告を受けた市当局、市の具体案を検討する市会議員各位、その他関係者の慎重な取り扱いをお願いしたい。また、関心ある方々のご検討も期待したい。
  なお、この問題に対する私達なりの検討に際して基礎知識を得るため、大阪の国立循環器病センターの峰松一夫先生、熊本市民病院の橋本洋一郎先生より直接ご教示頂く機会を得た。また、私達の質問に対する書面によるご回答も頂いた。
  云うまでもなく峰松先生は日本の脳卒中医療界の第一人者として知られ、厚生労働省の脳卒中に関する研究班の責任者をつとめておいでである。橋本先生は熊本市に於ける地域完結型医療を提唱され、実現の中心となられた日本では数少ない脳卒中専門医とリハビリ専門医の資格とを併せ持っておいでである。
  以下に、ご回答より〔峰松1〕、〔橋本2〕などを添付資料中の番号を記して引用させて頂く。なお、資料はご回答の一部であるが、全文は「脳卒中から助かる会」のホームページにある。これは会の名称だけでアクセス出来る。

報告書の問題点
  脳血管医療センターは全国でも有数の優れた脳卒中の専門病院として知られ、横浜市の脳卒中救急患者の11%が治療を受け、関東では一位と云われる。特に患者の立場から貴重なのは次の点である。
〔I〕毎日24時間脳卒中専門の医師とMRI等最新の機器が常時待機している。
〔II〕必要な場合最新の高度な急性期治療が受けられる。
〔III〕救急患者を断ることなく受け入れる開かれた医療体制である。

  この内、〔I〕だけでも実現されている病院は横浜市にはセンター以外一つもない。 (第4回検討会議議事録20?21頁)。
〔II〕についても脳梗塞の強力な特効薬t-PAが解禁されたとき、使いこなせる病院はセンターの他はいくつも無いという。(資格のある病院は4つとも云うが使いこなせる点はどうか?)

問題点1 脳血管医療センターなどの専門病院の救急を出来るだけ受け難くし、手遅れの恐れのある総合病院への搬送を強調している。
  これがマニュアル化されれば犠牲者が続出する。

(1) 報告書は、「救急患者をセンターのような専門病院ではなく、まず総合病院に搬送せよ」という。
★然し、横浜市の総合病院で、脳卒中専門の医師とMRI等が24時間待機しているところは一つもない。夜間ならば朝まで長時間待たされる可能性がある。脳卒中は発症後の3時間が勝負と云う。これでは手遅れである。

(2)報告書には?「患者自身が直接センターに救急来院すると、脳卒中でない場合にほかの病院に転送することになるから、まず総合病院に行くべきだ」とある。
  これに対して、検討会議で唯一人現代の脳卒中医療に精通した委員から、「これは間違いで、まずセンターのような専門病院で診て貰い、脳卒中でないと分かったら他の病院に運ぶのが世界の常識である(そうでないと手遅れになる)。」
?のようなことを書くと「横浜市は物笑いの種になる」と指摘があった。
(検討会議たたき台に対するD委員の書面による意見。第6回検討会議資料。)
  しかし、報告書にはたたき台の間違った意見がそのまま載った。
★横浜市は物笑いの種で済むかも知れない。しかし、手遅れにされた患者は死んだり、植物状態になったりする(例もある)かも知れない。
  この件は特に、専門学会に書面で正否を確認することが必要である。

(3)救急患者が直接センターに来院するについて「十分に訓練された救急隊が脳血管疾患の疑いがあると判断した場合」という制限が付いた。
★これまで、患者や家族が電話でセンターに問い合わせると、症状などを問診してくれて、「すぐ来るように」といわれて診察して頂けた。これで命が助かった患者も多い。これがやめにされることは本当に恐ろしい。
(最近では、素人でも医療情報が得られ、かなり初期の段階でも分かるようになって来た。まず総合病院でとなると、時間のロスが大きい。)

(4)報告書では脳血管医療センターで直接救急治療を受けるについて、南部保健医療圏を中心に」という制限が付いている。
★ 〔I〕の24時間待機の脳卒中治療のある病院はセンターだけである。
〔II〕の高度の治療が出来るところもごく少ない。この状態で南部以外の横浜市民は何故センターの利用から閉め出されなくてはならないのか。センター設立のための300億円の税金は南部以外の市民も払ったはずである。
  要するに、センターの救急を出来るだけ利用できないようにし、手遅れになろうとどうしようと、総合病院に救急患者を運ばせようとしている。

問題点2 市内の急性期医療の現状認識が過度に楽観的であり、報告書の提唱するストローク・ユニット(SU)の内容も不適切である。
(1) 報告書は市内の急性期医療は「現在、必ずしも満足とは言い切れず」と言い、回復期リハビリ病床の不足が「最大の問題」などと言っている。
  ところが、「今、一番問題なのは、脳卒中発症後の超急性期、急性期の脳卒中診療です。」(〔橋本1〕)
  最初の3時間の対応がしばしば生・死、重篤・非重篤を分けると云われる。 現在、市内で〔I〕の24時間の脳卒中専門対応の出来るのは脳血管医療センターだけ。市内の救急患者の約11%である。残りの人たちは利用していない。
  センターを拡充、周知して受診できる人達を増やすことが緊急の課題である。また、センターのような〔I〕,〔II〕の診療がもう少し小規模でも出来る病院を一箇所、二箇所と確実に増やすことが切実な課題である。

(2) 急性期治療の為に市民病院、市大病院、地域中核病院などにストローク・ ユニット(SU)を設置するとあるが、報告書が「ひとつの考え方」として紹介したSUは「移動型」である。(〔峰松・表1〕)。小都市などで患者数も予算も少ない中で有効な治療を目指した軽便型であり、〔I〕の24時間脳卒中待機体制と〔II〕の高度先進治療を行うことは極めて困難、または不可能である。
  350万都市横浜の脳卒中診療を支えるには、専用病棟型のSU(〔峰松・表1〕のB型)が必要であり、これならば〔I〕と、ある程度は〔II〕も可能で、有効性も確認されている(〔峰松2a〕)。
  なお、我が国では総合病院全体がせいぜい数百床と小規模なため、ここに設置される専用病棟型SUの規模にも制約があり、〔II〕の高度治療機能などある程度制約されるが、大規模SUを持つ施設との連携によって有効な機能が発揮されるという(〔峰松3,5〕)

問題点3 センターの急性期医療の能力と役割、実績などの確認が全く無く、今後の機能も不透明である。

(1) 医療機能を見直すためには、今の機能がどうであるかを具体的に確認した上で、将来の機能を考えることになる。
  ところが、報告書では、〔I〕の24時間待機体制や、〔II〕の治療能力を含め、こうした確認が全く行われていない。
  現在の欠点を二,三あげて改善するとした上で、「当面は急性期医療の提供が望ましい」と言っているだけである。
  まるで何かの“縛り”がかかったか、急性の失語症にかかったかのようである。センターが急性期医療の面で特に優れた貢献をしてきたことを考えると、一体何の為の機能検討であったかが謎である。
(2) 私達は横浜に居着いて来たが、井の中の蛙で居ると思わぬ災難に遭う。
センターの機能について峰松、橋本両先生のご回答より引用する。まず峰松一夫先生によれば、発足の時より、我が国最大、最新鋭の脳卒中専門医療機関として注目された。少なくとも首都圏、関東圏では空前の規模の施設である。鍵となる人材も神経内科や脳血管内治療の分野では一流と目される人材が多い(東北地方の大学の神経内科教授に転任した方も居る)。t-PA治験等でも登録数は多い。日本脳卒中協会横浜支部が設置 され、厚生労働科学研究費補助金による班研究にも参画中である。まさに、首都圏随一の「総合脳卒中センター」であったと考える。(〔峰松6〕)
  なお、特に急性期医療と市内のSUとの連携に関しては、今後、同センターの急性期診療が健在で、かつ新しく市内数カ所に設置されるSUと 適切な連携関係が結ばれれば、横浜市のみならず関東圏、さらには全国をリードしうる体制となろう。まさに、米国ブレイン・アタック連合による「総合脳卒中センター」勧告の内容に適合するからである。(〔峰松6〕)
  また、橋本洋一郎先生によれば、
CT/MRI、超音波検査、脳血管造影検査が二四時間稼働でき、また神経内科医、脳神経外科医、脳血管内治療医が二四時間脳卒中急性期例に対応できる病院は全国的に少なく、センターは特異な存在です。横浜の病院の中では、学会などでの発表も一番多く、医療内容が公開されており、大阪の国立循環器病センター、秋田県立脳血管研究センター、札幌の中村記念病院、済生会熊本病院(脳卒中センター)などと並ぶ、日本にとって無くてはならない脳卒中センターと思っています。(〔橋本〕)

 横浜市民の税金300億をかけ、熱心な医師達の努力もあって、センターはこうした機能を果たしつつあった。

問題点4 市内の回復期リハビリ病床の不足が脳卒中医療上最大の問題点とあるが、根本的な対応策は無い。

 一方、センターの急性期用病床の回復期リハビリ病床への転用準備が盛り込まれている。

(1)「最大の問題」かは大いに疑問である。然し回復期リハビリ病床の適正規模より不足の千数百床(第4回検討会議議事録)を補うことは重要である。

 報告書は根本的対策をあげていないが、橋本先生によれば、
 急性期医療の進歩により医療技術も設備も高度、高額のものとなり、「特定の病院に患者さんが集中するようになって来ます。そうなれば(中略)(急性期医療を維持できなくなった病院が)地域に密着したリハビリテーションを提供することになると思っています。(〔橋本1〕)

 なお、横浜市衛生局は8月26日に、回復期リハビリ病床の不足の解決策として市内の民間病院への誘導策を検討中と発表したが、適切と思われる。

 根本対策は、この方法と市外の病院との連携であろう。

(2)報告書には診療単価の問題と絡ませて「センター3階の急性期病棟の8

1床についても回復期リハビリ病棟の施設基準取得の検討が必要」と、ことのついでのように書かれている。

 これはセンターの基本的機能に関わる重大問題である。センターの急性期用病床は110床であり、81床は約3/4である。

 センターで現在〔I〕の24時間専門の医師とMRIが常時待機する診療が出来るのも、〔II〕の高度な医療が実施できるのも、110床という規模に支えられた大型で質の高い医師団の存在によっている。基礎となる病床が大幅に失われれば、小型の専用病棟型のSUとしても存在が危ぶまれる。これまで300億の税金を投じ、質の高い医師団が努力を重ねてきたのは何の為か。結果として、横浜市からは〔I〕の毎日24時間体制の脳卒中医療と、〔II〕の高度な医療の可能性も失われる。

 一方、これだけ貴重な病床を失って得られる回復期リハビリ用病床は市内の不足分の1/15にもならない。

 橋本洋一郎先生も、先ほど引用した文章に続けて、
  このように今後、多くのリハビリテーション専門病院が誕生してくることが予想される中で(中略)さらに100床の回復期リハビリ病棟が増えても、焼け石に水では無いでしょうか。(センターは)もっと急性期医療、脳卒中専門医療に特化した病院になるべきだと思います。(〔橋本1〕)

 横浜市の患者や市民の立場からは勿論、横浜市の医療全体の利害得失をまじめに考えれば、どうしてこのような構想が浮上するのか全く理解しがたい。

問題点5 病院の連携体制の内容が不透明である。連携のあり方によって最悪の状況も有望な状況も生じうる。

(1) 最悪の例:センターの急性期病床を縮小して回復期リハビリに転用する

 ことについて、問題点4の(2)では現状について述べたが、これは市民病院、市大病院、中核病院等にSUが設置された場合でも基本的には変わらない。特にこれらSUが「移動型」であれば、〔I〕の24時間脳卒中専用の待機体制は取れず、現在センターが持っている〔II〕の高度治療を行うことも期待できない。

 また、前記病院のSUが「専用病棟型」であっても〔II〕の機能は〔峰松3〕にあるように相当制約され、センターの大型SUの高度医療機能の援助を必要とする。センターの医療機能が失われれば、これは期待できない。

 また、〔I〕の24時間待機体制も大幅に増えることは期待できないので、この体制下の患者は減少するか、良くて現状維持にとどまる。市内の医療水準はジリ貧となる。センターの急性期病床を減らすことは著しく不合理である。

(2) 有望な例:センターの急性期治療と前記病院に新設されるSUと医療

 上の補完、人材育成等の面で連携すると共に、民間病院に回復期リハビリ病床を誘導して、これらの民間病院と、センターおよび新設のSU群との間に有効なネットワークを構成して連携する場合。この展望については〔峰松6〕にも示唆されている。

問題点6 脳血管医療センターでの病気の治療を二の次にし、情報提供機能を優先させようとしている。

(1) センター設立時の基本構想(友愛病院基本構想)の中にセンターの情報

 提供機能が盛り込まれていたのが十分実現されていないとして、次のような主張がなされている。

・ 情報提供機能などが「直接の医療提供よりさらに重要」(7頁下)

・ 「救急と急性期治療の分野に集中してしまった」(8頁後半)

・ (行政との連携を常に意識し)「情報提供していく機能を中心として運営していくべき」(9頁上)

 病気の治療以外の機能を優先せよというのであるが、これは脳血管医療センターが現在横浜市で〔I〕の脳卒中専門の24時間体制と〔II〕の高度な治療の出来る唯一つの病院であることを考えると驚くべき暴論である。

 しかも、問題の「友愛病院基本構想」を見ると「基本的な機能」はやはり病院として治療することであって、情報の提供ではない。情報提供はその他の機能の一つであって、それもセンターの中に「情報センター」を付設して、その情報センターが情報に関する業務に当たるというものである。

 検討会議はこの点を無視して、脳血管医療センター自体が病院本来の機能を二の次にするような主張を行っている。不注意による過誤か意図的な歪曲かは判定しがたいが、横浜市の患者と市民の生命と健康に重大な損害を与えることであって、極めて遺憾である。

(2) センターは報告にあるように、脳卒中の予防、医療、介護に関与しており、行政への情報提供によって有益な役割を果たすことが出来る。

 然し、高齢化社会の到来と共に、予防、医療、介護は財政面からも実施面からも縦割り行政再編の面からも激しい流動の最中にある。しかもこの問題は脳卒中に限定されない。予防、介護など、他の医療分野も含めた行政の本格的な取り組みの中で、専門病院としての立場から協力を図るべきである。

 この問題は、検討会議の最終段階で持ち込まれ、具体的検討を経ないで報告に載ったためか、不適切な点が多い。

問題点7 患者にとって切実な問題である医療事故、事故隠蔽の再発防止については、 全く検討されていない。一方、内部の人間関係に大きな問題があるなど検討会議として未調査、未確認の内容が盛り込まれており、不適切である。

問題点8 センターの赤字について、対応策は勿論、赤字が急性期、リハビリ、老健など、どの部門からどの程度出ているかさえも明らかにしないまま検討を終えたことは、全く無責任かつ不適切である。

 センターの赤字は検討会議発足当時大きく喧伝され、検討会議発足の大きな理由のひとつとされた。この点が全く明らかにされないまま、検討を終えたとなると、あの騒ぎは一体何の為だったのかと疑われる。

むすび

 今回の報告書を見て驚くことは、

★ 毎日24時間脳卒中専門の医師と最新の設備が待機する診療の重要性と必要性について、唯の一言も触れていないこと、

★最新の医療機器の、また高度の医療技術を持った人材の重要性についても全く触れていないことである。

 発症直後(3時間とも云われる)の急性期治療が最も重要であるという認識と医療技術の進歩による脳卒中医療の発展を重視することなく行われた脳血管医療センターの医療機能検討には、驚くと共に恐怖を感じる。

     手遅れになろうとなるまいと、診てさえやれば良い。

     治療の内容はどうでも、後はリハビリで世話をして

     やれば良い    とでも云わんばかりである。

   (事実、救急に関する検討会議提案は手遅れの頻発を引き起こす。)

 私達は、横浜市において現代医療の発展の成果を十分に反映した脳卒中治療が広く、確実に展開されることを、特に以下の点を希望する。


毎日24時間、脳卒中専門の医師とMRI等が常時待機し最新の高度な治療を行う脳血管医療センターの急性期医療をさらに充実すると共に、SUを備えた同様の機能を持つ病院を市内に着実に増加させて行くこと。


高度の治療能力を持つセンターの医師団を大切に維持すると共に、全国から有能な医師の来任を求めて充実すること。さらに他の病院についても同様の措置が取られること。


回復期も含むリハビリについて、市内の民間病院に対する行政の誘導、市外の病院との連携等によって参加する病院を増やし、センターなど市内の急性期治療を行う病院との有効なネットワークによって、連携が図られること。


各病院において、厳しい医の倫理、開かれた運営によって医療事故、事故の隠蔽等が起こりにくい体制が構築されること。


市の行政各部門間の適切な調整によって、脳卒中と限らず疾病の予防、医療、介護への本格的取り組みの体制を構築し、センターなど専門病院等に有効な協力を求めること。

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